勉強するということ

以前、東大名誉教授の上野千鶴子さんが大学受験において浪人することに対し、朝日デジタルにこんなことを書いていました。

<<日本には大学入学時の帰属がその後の一生を決める仕組みがあります。大学に入った後で何を獲得したかを問われない社会です。生涯にわたって「東大卒」「旧帝大卒」などとブランドがついて回る。学歴が呪いとなり、そんな価値観の中に親も子もどっぷりつかっているから「浪人」という期間が生まれるのです。(朝日デジタル2020年2月16日一部抜粋)>>

この主張はかなりの多数の人たちに当てはまる正しいことだと私も思いますが、結構違う人たちもいることを知って欲しいのです。
私の教え子がかつてこんなメールをくれました。
<<この度、両親に一浪させてもらった結果名古屋大学工学部に進学することに決定いたしました。
昨年、先生はたとえ浪人して東京理科大学であったとしても良い受験ができたと思えなければダメだとおっしゃってくれました。そのことを胸に秘めてこの1年間努力して参りました。
僕は、最初応用力が足りなかったから不合格になったのだと思っておりましたが、夏休みまでの授業であまりにも基礎ができていなかったことを実感しました。先生に中学受験時代に教わったことを中高時代に忘れてしまっていたことに気づき恥じました。やはり、どの勉強でも基礎が大事なんですね。これからの勉強でも気をつけなければならないと思いました。

僕はこの1年間浪人させてもらえて本当に良かったと思いました。やはり現役時代の学力では大学の授業についていけなかったから不合格になったんだなと理解しました。>>
彼は現役時代東京理科大には合格しましたが、自分の勉強はダメだったので納得いく勉強をしてみたいと言って浪人しました。
東京理科大が嫌だったのではなく、自分の勉強が足りなかったことに腹を立てていました。
それに対して私は「きちんと勉強できればどこにいっても伸びていける。もし1年納得のいく勉強ができてその結果東京理科大に合格だったら来年は東京理科大に行きなさい」とアドバイスし、その結果報告がこれです。
受験勉強で大切なことの一つに、自分の勉強のスタイルを確立することがあると思います。
長い人生、ずっと勉強は続きます。
彼はこれから先努力して乗り越えねばならないことにぶつかった時、自分はどうすればよいかを知ったのだと思います。


<<今年は現役のときよりも時間の流れがとても早く感じました。
だから、一瞬一瞬で辛いと思うことはあったのかもしれないけれど、浪人生活が辛かったかと聞かれれば全然そんなことはなかったです。(もともと落ち込んでもそこまで引きずらない性格なのもあったかもしれないですが)

受験勉強自体はとても集中して打ち込むことができたと思います。周りの生徒はみんなとても優秀で、常に追いかける側にいたので驕ることなく勉強できました。
まずは来週のセンター試験でしっかり点を取って、二次試験に向けてしっかり準備をしていこうと思います。

去年のこの時期は始めての大学受験で緊張や楽しみな気持ちで少し浮ついていましたが、今は心の中がとても静かというか、落ち着いているような気がします。

この一年間で勉強以外にも思うことはたくさんありました。でも二ヶ月後には結果も出ているだろうと思うので、それまではもう少し勉強に専念しようと思います。
良い報告ができるよう、ラストスパート頑張ります。>>
この子は大学の系列高校でしたから推薦を受ければ系列大学(相当優秀)に入れましたが自分の勉強不足を反省し、現役時代には東大を受け、一橋に行きました。
二人のメールを読んだ感想はいかがでしょうか?
ものすごい精神的な成長が感じられないでしょうか?二人ともものすごく爽やかです。
二人目など、まだ受験が終わってないのに結果を全く気にしていません。
結果がさほど関係ないからです。
現役で上野さんの元に来る学生は皆自分なりの勉強を知っていたから受かったのです。
しかし、それを身につけるのにもっと時間のかかる子もいるのです。それぞれの人間の時間割は皆違うと思います。しっかりと勉強できるようになるのに「浪人」が時間割に必要な人間がいて、その時間は決して無駄ではないのです。
おかしげな見栄や虚栄心にかぶれなければ子供達はこんな成長を見せてくれるのです。
人間は素晴らしいと言っていいのではないでしょうか?
もちろん彼女は一般論的な物言いをする必要があるから多数の学生に当てはまることを書いたわけですが、もっと色々な人に会えばよかったですよね。

この二人は中学受験の時に教えた生徒です。私は生徒に少しだけお願いをします。
・「自分にとってこれが正しい勉強だ」と手応えをつかむよう頑張って欲しい。
・自分が受かった時には掲示板の前でバンザイせずに陰でこっそり喜びなさい。
・一所懸命勉強して、少しだけ強くなって弱い人を助けてあげて欲しい。
私と縁のあった生徒たちがこれから少しでもいいから弱い人の力になってくれたら嬉しいです。
上野さんも日本の指導層になる人たちと接しているのですから、見栄や虚栄心を捨てて少しでも弱い人たちの力になってくれる学生を育てて欲しいと願っています。